日本品質の鉄道貨物輸送を世界へ。
そして、世界中の
暮らしをより豊かに。

技術支援から事業化へ。JR貨物の海外展開加速。

工学研究科電子・情報工学修了
経営統括本部 海外事業室

西村 公司Koji Nishimura

工学研究科電子・情報工学修了
鉄道ロジティクス本部 海外事業室

PROFILE1989年入社。入社後、北海道支社にて保全業務、貨物指令業務などを担当。その後、学生時代に培った情報科学の知見を買われ、システム開発部門へ。貨物情報システムFRENSの開発、運営に携わった後、計画推進室(現・戦略推進室)に異動となり、駅業務における業務改善施策の計画・推進を担当。さらに再びシステム開発部門へと異動となり、FRENSを発展させた鉄道コンテナ輸送管理システムIT-FRENS&TRACEの開発、運営を担当。2005~2007年にJICAが実施したインドでの貨物専用鉄道建設調査プロジェクトに参加して鉄道貨物オペレーションに関する現状分析を行った。これが契機となり、JR貨物の海外事業の礎を築く役割を担うことに。2014年の海外事業室設立にも尽力。現在、同室の初代室長に就いている。

未知との遭遇。

すべてが強烈だった。その国に足を踏み入れた刹那、鼻腔の最深部にまで、味わったことのない刺激が流れ込んできた。2005年11月、深夜。デリー国際空港。西村は、人生で初めてインドの地を踏んだ。その数日後には、摂氏40度を超える酷暑の中をひた走る冷房のない機関車に同乗していた。拭けども、拭けども、滴り落ちる汗。人間はこんなにも汗をかけるものかと疑った。インド国有鉄道が運行するその機関車は、日本のものとは比較にならないほど揺れた。脱水症状寸前の自分の身体と意識をどうにか保とうと手すりにしがみついた。悪戦苦闘する西村の視界の先には、涼しい顔をして運転しているインド人運転士がいた。 「学生時代から英語は大の苦手でしたから、英語を使わなさそうな会社を選んだんですがね。想定外でした(笑)」。 西村が在籍するのは、海外事業室。各国での貨物輸送に関する鉄道インフラの整備状況確認や鉄道輸送のニーズ精査などの現地調査、貨物鉄道の事業運営にまつわる技術支援・コンサルティング、ノウハウ提供・アドバイスを行い、貨物鉄道事業そのものの輸出・運営受託も担っている。 西村がインドを訪れた理由。それは、2005年当時の小泉首相がインド訪問時に発表した声明に端を発する。「首都デリーと商業都市ムンバイを結ぶ貨物鉄道専用線建設の、円借款での支援を検討する」というものだ。その声明が具体化しプロジェクト化。西村は貨物鉄道のプロフェッショナルとして招聘され、建設に向けた初期調査〜技術支援を行うためインドを訪れたのだった。

社会発展の流れをよどませないために。

経済発展にともなう貨物量の増加に、国内物流インフラが追いついていかないインド。広大な土地を持つインドでは長距離・大量輸送が可能な鉄道貨物輸送への期待は大きい。しかし、車両や線路設備は老朽化。何より運行技術やオペレーションノウハウが不足していた。政府やインド国鉄だけでなく、海外へ進出した日系企業をはじめとした荷主側も大きな危機感を抱いていた。その状況を打破するための貨物鉄道専用線の建設だった。 西村が最初に任せられたのは、鉄道の運行計画やオペレーションのプランニングおよび課題や改善点の抽出だった。デリー、ムンバイ、コルカタ、ブッダガヤ・・・。各地へと足を運び、各駅の設備、線路状況、駅員の仕事ぶりなどをその目で見た。西村は、インドの鉄道輸送の現実を見るほどに、可能性を感じていった。 「調査を進めれば進めるほど、日本品質の輸送の素晴らしさを実感しました。インドでは、貨物列車が時間通りに運行されることはほぼありません。そもそもダイヤらしいダイヤも存在していない。数え切れないほどの改善点がそこにはありました。しかしだからこそ、インドの鉄道輸送にはとてつもない進化を果たせるポテンシャルがあるのだと感じました」。 それから数年の時が経った2017年、インドでの調査・技術支援プロジェクトは大きな手応えとともに完了。そして西村たちは新たな一歩を踏み出している。 「次は支援にとどまらず、具体的な鉄道輸送事業の構築を目指しています。インドでは自動車生産量が右肩上がりで増加していますが、その自動車を鉄道輸送するという事業プランです。計画では、自動車だけでなく他の貨物も運べる特殊コンテナを作成しようと考えています。2019年度には試作品の作成にこぎつけたいですね。まだ調査・提案段階ではありますが、インド社会に大きく貢献できる事業になると信じています」。

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アジア諸国の発展を牽引する一翼に。

物流の停滞が社会発展を停滞させているのはインドに限った問題ではない。特に途上国や新興国は例外なく困っている。例えばタイ。そこには鉄道がほぼ機能していない状況があり、物流も自動車輸送にほぼ100%頼っている。これが深刻な交通渋滞と環境悪化を招いている。 「JR貨物が持つ技術、システム、ノウハウは世界に誇れるもの。それらを活用すれば、様々な国が抱える物流にまつわる悩みを解決できる。これまで様々な国を見て回ったことで、そう確信しています」。 実際に海外事業室では今日までにアジア諸国を中心として数々の成果をあげている。タイでは、南部経済回廊での鉄道貨物輸送可能性調査と12フィートコンテナの鉄道輸送導入調査。ミャンマーでは、旧首都ヤンゴンから第二の商業都市マンダレー間を結ぶ線路設備改良調査。カンボジアでは、カンボジア〜タイ国境地域での鉄道貨物輸送可能性調査。ベトナムでは、南北統一鉄道の輸送活性化調査。カザフスタンでは、物流調査と鉄道輸送の技術セミナーを開催。 「私たちが現在、メインターゲットとしているエリアはやはりASEANです。経済発展著しい国々が並ぶこのエリアには、壮大な可能性がありますから。しかも陸続きの国も多い。鉄道貨物がASEAN諸国の物流をつなげば、アジア全体の経済発展の礎にもなれる。そう思っています」。

日本発の鉄道貨物が、大陸を縦横無尽に走る未来へ。

西村は、まだ見ぬ未来をこう描く。
「日本という国はその地形から、鉄道貨物輸送にとって厳しい環境なんです。細長い島国で資源のほとんどは輸入されて港に陸揚げされる。そのため港湾の数は多く、いずれかの港から主要都市までは、長くても100km、200km走れば着いてしまうのですから。それでもJR貨物が現在のシェアを確保できているのは、長い歴史の中で絶えず輸送品質を高め続けてきたからだと思っています。そして今こうして世界地図を広げれば、そこにはいくつもの広大な大陸があります。デリー〜ムンバイ間、1,500km。バンコク〜チェンマイ間、600km。ヤンゴン〜マンダレー間、600km。世界には日本よりも遙かに貨物鉄道が適した環境があり、大きな需要もあるのです。まだまだ前例はなく、ゼロから自分たちで考え試行錯誤していかなくてはならないことも多い。ですが世界中の国々の社会発展に物流面から貢献することができ、さらに地球全体の環境改善に貢献できるのだと思うと力も湧きます。広大な大陸を日本品質の機関車やコンテナが、縦横無尽に走っている。そんな未来を実現したいですね」。

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