長年培われた知見と先端技術、
そして開発への熱い想いを融合し、
軽くて、力強い新型車両を。

『DD200 形式電気式ディーゼル機関車』開発

工学部電気電子工学科卒
鉄道ロジスティクス本部 車両部 開発グループ

杉山 義一Yoshikazu Sugiyama

工学部電気電子工学科卒
鉄道ロジスティクス本部 車両部 開発グループ

PROFILE2004年入社。学生時代は電気電子分野でパワーエレクトロニクスなどを学び半導体研究に勤しんだ。就職活動では、電気電子工学のみならず多様な分野の知見を吸収・活用できる仕事をしたいと、鉄道のほか航空・海運・陸運会社などを視野に活動。中でも現場主義を掲げるJR貨物に惹かれた。「機関車の開発に携わりたい」という想いを胸に入社。車両メンテナンス業務、運転士養成課程・運転士を経て、2008年に念願だった車両開発部門へ。現場で車両と触れあってきた経験をもとに、新型車両の開発に情熱を注いでいる。

DE10に代わる新型車両を開発せよ。

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1966年に誕生し、国鉄時代から非電化区間の貨物列車牽引および駅構内での入換作業の双方を行える機関車として全国各地で活躍してきたのが、DE10形式液体式ディーゼル機関車。長年にわたって、鉄道貨物輸送を支えてきた車両だ。各地の車両メーカーで製造される鉄道車両の輸送にも使用されている。しかし、設計から長い年月が経過し、老朽化にともなうメンテナンスコスト増大が課題に。新たな車両開発が待ち望まれた。そこでJR貨物はDE10に代わる新型車両として、まずは2010年に貨物駅構内での入換作業を担う新型の入換専用機関車を開発した。低公害小型ディーゼルエンジンと大容量リチウムイオン蓄電池の2つの動力源を融合させたハイブリッド機関車、HD300形式だ。高い環境性能を有するHD300は、2012年に量産化が叶い、すでに全国の貨物駅への導入が進んでいる。そしてこの次に求められたのが、貨物駅での入換作業に加えて非電化区間の貨物列車も牽引可能な新車両の開発だった。この開発プロジェクトを牽引したのが、HD300にも携わった車両部開発グループ 杉山義一だ。HD300で得た知見も糧に、次なる開発に挑んだ。

「重くなければ、力は出ない」という機関車の常識を打ち破れ。

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「車両開発はまず、走行する区間の環境、牽引する貨物列車の重量といった“使用条件”を調査・把握することがスタートになります。そこから新車両の基本仕様を策定していきます。このとき確認できた条件は、決して易しいものではありませんでした。新車両が走行するのは主に非電化区間ですが、そのなかには重量制限の厳しい橋梁や、牽引力が必要な急勾配区間が存在しました。」 軽量化と牽引力の確保が、至上命題。しかしそれこそが最大の難関だった。近年の内燃機関車の開発においては、トルクコンバータと呼ばれる液体変速機を使用する液体式ではなく電気式が主流。本開発においても、ディーゼルエンジンで発電し駆動用のモーターで走るという、電気式ディーゼル機関車の開発が基本方針であったが、杉山はこう話す。 「電気式は液体式と比較し、搭載機器がどうしても増えてしまいます。つまり、車体は大きく重くなる傾向がある。しかし、走行予定の線区には重量制限があり軽量化は必須条件です。そしてこの軽量化が、新たな問題を浮かび上がらせました。機関車は動輪で発生させる力をレールに伝達して列車を牽引します。機関車の重量を軽くすると、動輪からレールに伝達できる力の大きさの面で不利になるほか、力の大きさによっては動輪が空転しやすくなるという常識があるのです。その常識に反し、今回開発する機関車では軽量化を果たしながら、走行予定の線区に存在する急勾配を乗り越える牽引力も確保しなければならなかったのです」 彼方を立てれば此方が立たず。軽量化と牽引力の確保は、相反する課題だったのだ。

国鉄時代からの知見と先端技術とを融合させる。

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杉山らがまず苦心したのが、基本仕様の設計だった。 「入換にも使用する機関車であるので、少しでも車両を短く、コンパクトにできないかとメンバー一丸で知恵を振り絞りました。車両メーカーとの打合せも何度も重ねました。必要な機器を車両内にパズルのように配置して、何度も基本設計を改訂。国鉄時代からのあらゆる機関車の仕様書や資料を引っぱり出してきて、打開するアイデアを探したこともありました。」 車両メーカーとの設計会議は約50回にもおよんだという。杉山らは、国鉄時代も含めてJR貨物が蓄積してきた知見も活かし、軽量化に向けて歩を進め続けた。それと同時に、牽引力の確保という課題にも挑んだ。 「DE10は動輪の軸数(動軸数)が5軸の機関車でしたが、今回開発した機関車ではJR貨物が機関車用として開発した2軸ボギー方式の標準台車を適用し、動軸数を4軸で構成することにしました。軸数が減る分、1軸あたりの牽引力をしっかりと発揮できるようにする必要があり、大きな開発課題となりました」 開発チームは、この問題に対し、車輪の回転を制御する空転制御システムを(公財)鉄道総合技術研究所の協力も得ながら刷新した。最新技術を駆使し、必要な牽引力を確保したのだった。このように次々と浮かび上がる難題に、開発チームメンバーたちは立ち向かい続けた。そして、設計や制御システムの刷新だけでなく、インバータ装置への新しい半導体素子の活用、搭載機器の小型軽量化など、多様な技術、工夫、知恵が、新車両には詰め込まれていった。

一歩でも前へ。少しでもより良いものを。

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開発チームが流し続けた汗の結晶、『DD200 形式電気式ディーゼル機関車』が誕生した。2016年、夏の暑さが目前に迫っていた頃、第一号となる試作車が完成。翌月から関東、東北エリアでの性能確認走行試験を開始。試験結果を受け、制御システムの調整などが加えられ、DD200 は完成形へと確実に近づいていった。懸念されていた走行予定線区で最大の急勾配も、DD200は力強く乗り越えた。杉山たちは、まるで我が子を見守るような目でDD200の働きを見つめた。 様々なテストを重ねながら、少しでも良い車両をと杉山たちは最後まで改良を加え続けた。そしてその完成度は、「世界的に見ても電気式で軸重14.7tと、ここまで軽い車両重量でこれだけの牽引力を持つ機関車は他に類を見ない」というレベルにまで達した。時速85km/hだったDE10の最高運転速度も、DD200は110km/hにまで高めた。

DD200が日本中に張り巡らされた鉄道輸送網を。

プロジェクトは現在、試作車からの各種改良を行った量産車の製造段階に突入。2019年8月以降順次、DE10との置き換えが進んでいく計画だ。非電化区間も力強く走行するDD200は、これまでJR貨物が築いてきた全国にまたがる鉄道輸送網を駆け抜ける予定である。開発は常に難題の連続だった。しかし、杉山は言う。 「困難続きでしたが、最後まで開発チームが熱い想いで取り組んだプロジェクトでした。やっぱり、みんなこの仕事が好きなんですね。それに、目の前にある課題は何とか解決しなくてはという想いもあった。社内には長い歴史のなかで培われた知見があり、上司や同僚たちのなかにも様々なアイデアがある。もちろん、協力してくれている車両メーカーにも。みながスクラムを組めば、開かない扉はない。そう思っています」 DD200は2019年、本格運用が開始される。最後まで油断は許されないが、杉山の視線は、次なる開発をも見据えている。 「私たちの生活が日々便利になっているのと比例して、商流も加速しています。だから物流も進化を止めてはいけない。鉄道貨物輸送は、長距離・大量輸送という他にない強みがありますが、それにスピードという武器も加われば消費者のニーズにもっと寄り添うことができるはず。機会があれば、そんなチャレンジもしてみたいですね。 困難は多いでしょう。でも、自分たちの仕事はこの社会のために役立っているんだと実感できるこの場所なら、諦めずチャレンジしていける。そう思っています」

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